私は、視力が著しく悪い。

しかしこれは便利な時もある。
例えば、怒鳴りつけてくる相手の顔を、みなくて済む。

私が親に怒られて、耐えられないときはメガネを外す。
どんなに怒りで歪んだ顔も一瞬で見えなくなる。
どんな話もスルーできる。
そうやって自分と向き合う苦しみから逃れ続けてきた。

広く黒い海の上、私はメガネを外してボートを慎重に漕いでいた。

一人で孤独なのかさえ、メガネ無しだとわからなくなる。全く進んでないくせに、実は進んでるんじゃないかと思わせてくれる。

ねえ、メガネをかけたら実はみんな近くに居るんじゃない? 

「ここから先になかなか行けないんだ」
作り笑いを浮かべながら言った私に

貴女はメガネを掛けさせた。

視界の先には広くて黒い海と空と、貴女の笑顔が満開だった。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です